食べる時にはよく噛みましょう、といわれるように、よく「噛む」のは体にいいことだ、と皆さんもよくご存知だと思います。でも実際には、それを聞いて最初の頃は意識していてよく噛むようにしていても、そのうちすぐ忘れてしまう人も多いのではないでしょうか。
また、現代は軟らかい食べ物で溢れていますので、なかなかわざわざ咀嚼が必要なものを食べる機会もないものです。今回は「噛む」ことの効用、また、噛まないことで起きるデメリットについて見ていきたいと思います。
「噛む」ことの効用
噛むことの効用については、学校食事研究会がわかりやすい標語を作っています。ご紹介していきましょう。
ひみこの歯がいーぜ
ひ:肥満予防
これはよく知られていることですが、よく噛むことによって脳にある満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防いでくれます。だいたい食べ始めて約30分くらいで脳の満腹中枢が作用し、食欲を抑えてくれると言われています。よく噛んでゆっくりと食べることにより、肥満や、糖尿病、高脂血症などの予防にもつながっていきます。
み:味覚の発達
よく噛んで食べると、味細胞が刺激され、食べ物の素材の味がよくわかるようになります。
こ:言葉の発音がはっきり
成長期によく噛んで食べることにより、お口の周囲の筋肉が鍛えられ、顎の発達が良くなって歯並びが良くなる効果が期待できます。歯並びが良いか悪いかで滑舌にも大きく関わってきます。大人の場合でも、よく噛むことによって噛む筋肉、表情筋が鍛えられ、表情が豊かになり、発音が良くなる効果が期待できます。
の:脳の発達
噛む刺激というのは、すぐ近くにある脳に伝わりやすく、よく噛むことが脳細胞を刺激し、脳の血流もよくすることで、脳を活性化することがわかっています。子供の場合は学力の向上、高齢者の場合には認知症予防効果を期待できます。
歯:歯の病気予防
よく噛むと、唾液腺が刺激されて唾液がたくさん出るようになります。唾液は消化酵素としての働きだけではなく、お口の中を洗い流す自浄作用、酸を中和する緩衝作用、細菌と戦う抗菌作用、酸に溶かされた歯を修復する再石灰化作用などの働きを持っています。このような働きにより、虫歯や歯周病を歯から守ってくれています。
が:がん予防
唾液には様々な酵素が含まれており、例えば、ペルオキシターゼという酵素は、発がん物質の発がん作用を消してくれる働きも持っています。噛むことによって、唾液がたくさん出るので、このような働きが盛んに行われるようになります。
いー:胃腸の働きを促進
よく噛むと、唾液がたくさん出て、唾液に含まれるアミラーゼ、マルターゼ、リパーゼなどの酵素によって消化が行われ、胃腸の消化を助けてくれます。
ぜ:全身の体力増進と全力投球
人は力を出す時、歯を食いしばって力が最大限に発揮されます。また、しっかりと噛み合わせができないと、体の平衡バランスも悪くなり、転倒しやすくなることもわかっています。このように、噛み合わせは運動能力に大きく関わっています。
よく「噛む」ことは、これらの効用の他にも、骨盤の発育促進、脊柱を正しく保ってくれる働き、顎関節症の予防、情緒の安定、頭痛や肩こり、腰痛などの予防、視力改善などにも効果があると言われています。つまり、よく噛むことは、歯の健康、美容、体の機能など、体全体の改善につながってくると言えます。
よく噛まないと起こるデメリット
よく噛まないでいるとどうなるのでしょうか?まず、軟らかいものばかり食べてあまり噛まない生活をしていると、唾液が正常に分泌されず、歯の表面にプラーク(歯垢)が溜まりやすくなり、虫歯や歯周病のリスク、そして口臭のリスクも高まります。また、噛む筋肉が鍛えられなくなるので、顎関節症を発症しやすくなり、顎の周囲の筋肉の痛みや顎関節の痛み、そしてそこから頭痛や肩こり、首の痛みなどに発展していきます。
噛む筋肉が鍛えられないと、表情筋もたるんでしまい、顔にしまりがなく、二重アゴや頬のたるみ、ほうれい線などが現れやすくなるなど、見た目にも影響してきます。また、よく噛まずに早食いしてしまうことにより、メタボリックシンドロームや肥満、そしてそこから糖尿病などの生活習慣病にもかかりやすくなります。
糖尿病は歯周病を進めてしまうので、歯はさらに悪くなり、どんどん歯が抜け始めます。どんどん歯が抜け始めると余計に噛めなくなり、唾液もさらに分泌されなくなり、健康状態も悪くなって、見た目も悪くなっていく・・・という負のループに入っていきます。
つまりこのように、よく噛まないで済むような楽なものばかり食べていると、将来的にあまり良い結果をもたらさない、ということがわかるでしょう。ぜひこれからでも、食事中は意識してよく「噛む」こと、そして噛まざるを得ないような噛みごたえのあるメニューを一品でも食事内容に組み込むことをおすすめします。