歯には全く異常が認められないのに、歯の痛みを訴えられる患者さんが時々いらっしゃいます。このような場合、「歯科心身症」が原因になっている可能性もあります。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、歯科心身症は歯の痛み以外にもお口の中のさまざまな自覚症状を引き起こすことがあります。
どんなに調べても原因が特定できないため、症状が改善されないだけでなく、不必要な治療を受けてむしろ症状が悪化してしまうこともある歯科心身症、いったいどのようなものなのか、ご紹介していきます。
歯科心身症のいろいろ
歯科心身症としては以下に挙げるようなものがあります。歯科治療ではなかなか改善されない症状がある場合、もしかしたらそれは歯が原因ではない可能性があり、場合によっては心理療法や薬物療法が効果的なことがあります。
非定型歯痛
歯には何も異常が見つからないのに痛みを感じたり、歯を治療した後に原因不明の痛みが続くというような状態です。通常、歯に痛みがある場合、抜歯や神経をとる治療などで痛みがなくなるのが普通ですが、処置を繰り返しても頑固な痛みが続くことがあり、そのような場合には非定型歯痛の可能性があります。比較的中高年の女性に多く見られることがわかっています。
口臭恐怖症
特に口臭はないのにも関わらず、自身で「口臭がある」と思い込み、悩んでしまっている状態です。体臭がないのにあると思いこむ「自臭症」の一つであり、真面目で繊細な人、几帳面な人に多く見られます。自分の匂いが気になりすぎて、対人関係や日常生活に支障をきたしてしまうこともあります。
舌痛症(ぜっつうしょう)
舌に全く異常な所見が認められないのに、「舌が焼け付くようにピリピリする」というような痛みの症状だけが長期間にわたって続く状態です。痛みは起きてから寝るまで続き、痛みの強さには波があります。ただし、痛みで眠れなくなるということは通常ありません。心理的なストレスと密接な関係があると言われており、特に40代以降の中年女性に多く見られ、更年期障害との関連もあると考えられています。
咬み合わせの異常感
調べても咬み合わせに異常は見当たらないのに、咬み合わせの異常を感じる状態です。歯を治療して詰め物やかぶせ物を装着したことがきっかけになることもあります。神経質な人に多く見られ、咬み合わせを気にしすぎて余計に神経が過敏になり、ご自分でちょうど良いと感じる噛み合わせが分からなくなってしまいます。
顎関節症(がくかんせつしょう)
歯科心身症が原因で顎関節症を起こすことがあります。心理的なストレスがあると、歯ぎしりや食いしばりといった現象が起こりやすくなりますが、このような現象は顎関節症の大きな原因となっています。それゆえ、このような顎関節症は歯科心身症の一つであるとも言えます。
お口、お口周辺の異常感
口の中に常に違和感がある、ヒリヒリする、いつも何らかの味がする、顎がゆがんでいる気がする、といったようなお口の中の違和感、異常感を感じる状態です。
歯科治療恐怖症
歯科治療に対して異常な恐怖感を持っており、まともに歯科治療が受けられない状態です。かつて受けた歯科治療時の恐怖がトラウマとなって残っており、歯科治療を受けることを想像しただけで気分が悪くなる、息苦しくなるなどの症状が現れます。最近では、歯科治療の恐怖感を取り除いてくれる笑気麻酔や静脈内鎮静法というものもありますので、恐怖感の強い方はご相談ください。